第3章 神々の悪戯/ハデス・アイドネウス
「ハーデスさん」
「…苗字か」
「今日も星座の観察に行くんですか?」
「どうせ途中で雨が降るだろう…」
「大丈夫です!ハデスさんと一緒なら!」
ハデスさんはギリシャ神話の神で死語の世界である冥府の王であり、彼は呪いによってかなり不幸なのだ
星座を見に行けば雨が降り、いちご大福を食べれば中の餡といちごが無かったり、その大福の中身が辛子やわさびだったり、バナナの皮で滑ったり…言い出したらキリがない
「今頃だと、どんな星座が見れるんですか?」
「今の時期だと…蟹座、獅子座、乙女座…あとはおおぐまざ何てのも見られるな
雨が降らなければの話だが」
自分で不幸って自覚しちゃってるところがまた悲しいよなぁ…思いながら雨が降っても良いようにと持ってきた傘をグルングルン振り回した
そう言えば前に雨が降ったときには結衣ちゃんとかアポロン達が…何とかしてくれたからなぁ。と少し前のことを思い出していた
「やはり…降ってきたか…」
「えっ」
望遠鏡をセットし始めた所でやはり彼の不幸によって雨が降ってきた。もちろんそれは先程言った通り想定内で、私は傘を準備し始めた
そしてハデスさんに傘を差し出すと、彼は照れながらもお礼を言ってくれた
「もう少ししたら止むかもしれませんし、いちご大福食べて待ちません?」
「…ああ」
持ってきた手提げの中からレジャーシートを出して芝生の上に広げた
そこに2人で傘をさして、ハデスさんの好物であるいちご大福を食べている
「ハデスさん!今私、雨だけど幸せです」
「…ああ、おれもだ」
「不幸で幸せに、なれましたね…あ!
ハデスさん!雨、雨やみましたよ!」
あまりの嬉しさに微笑むと、彼は普段見せない笑顔を見せてくれた
雲の隙間から見える星空に夢中になっていると、彼は後ろから私を抱き締めてきた
「ハデスさ…!」
「ありがとう…苗字」
彼はその日から、少しずつだが天文部の部員も交えて星空の観察に行くようになった
そんな彼と私が恋人になるまでは、もう少し先のことである