第11章 オマケ
『桜、見に行きませんか?』
「…今から!?」
『今からです』
ある日の夜、小雨が降ってきたことを確認したところでなぜかテツヤから電話越しに言ってきた。
お風呂を済ましてしまった後なのだが…せっかくの彼の誘いだし、別に二十歳を回ったのだから外に出ても問題はないだろうと了承の返事をした。
彼はダメ元で誘ってくれたらしく、返事をした時にすごく喜んでくれていた。
どこに待ち合わせをすれば良いのかと聞いたところ、危ないから玄関まで迎えに来てくれると…とても紳士的な態度を見せてくれた。それは20分程前のことだった。
「お待たせしました」
「…どこいくの?」
「桜です」
「こんな夜に!?」
「雨が降ってきたから、見せたいんです」
迎えに来てくれたテツヤの髪からは微かにシャンプーの香りがして、状況は私と同じだったことが理解できた。
雨と言っても本当にパラパラ程度で雲だって出てない状況なのだが…良いのだろうか。
だけれども自分の彼氏を信じようと決し、彼の左手を握って着いていった先は公園だった。
「詳しくことを言うと…桜雨を見に来たんです」
「桜雨…?」
「桜が咲く時期に降る雨のことを言うんです」
「そのままだね」
「でも結構綺麗なんですよ。ほら」
彼の見ている方向をみると大きな桜が綺麗に咲いており、花弁が雨水によって満月の光を反射していた。
その美しさに思わず息をのんだ私わ見たテツヤはとても嬉しそうに笑ってくれた。
「すごく綺麗!満月と小雨って…奇跡だね!」
「僕が前見たときには半月だったんですが…満月だとよりいっそう綺麗ですね」
「桜雨の意味…これに変えたら良いのに…」
「その組み合わせでも、十分綺麗ですよね」
写真を撮ろうと頑張って見るが、残念なことに月の光の反射が上手く写らなかった。
だからこそ本物を彼は見せたかったんだろうな…と思い、彼の左手をギュッと握った。
「…テツヤ」
「はい」
「毎年…見に来たいな」
「…もちろんです」
彼へと告げた言葉は1プロポーズなどに入るのだろうか…入るのだとしたらとても嬉しいな。なんてふざけたことを考えているものの、私の心は隣の恋人と目の前の桜に奪われていた。
突如テツヤに呼ばれたため横を向くと、不意打ちで私の唇が奪われてしまった。相手が恋人であるため不快感なんて無く、私は彼へと身を任せた。
