第2章 序章
カタカタ
カタカタカタ
その音と揺れに気付いたのは、午前2時。まさに草木も眠る丑三つ時だった。
自室のベッドで布団にくるまっていたアスミは、体の奥に響いてくる揺れに、反射的に起きあがる。
「……地震……?」
カーテンを通して射してくる月光が、不安げに眉をひそめるアスミの顔を照らす。
その月がいつもより赤いことに気付かず、アスミはベッドの上で揺れを感じていた。
いつ来ても、これは非常に気分が悪い。船酔いや車酔いはしない方だが、する人はこんな感じなのだろうか。そんなことを思いながら、辺りをそっと見回す。
本棚に置いた、今は亡き母親の写真が収められたフレームが、揺れに合わせてカタコトと小さく音をたてている。アスミはベッドから下り、写真が落ちないようにフレームを伏せる。
しばらく本棚のそばに立ったまま、身を固くしていると、小さな揺れは時間と共に静まっていった。
「終わった……?」
激しい揺れに発展しなかったことに安堵し、一つだけ息を吐き出す。安心による眠気に包まれながら、布団に倒れ込んだ時、視界が灰色へと一変した。
「――!」
久しぶりに体験した予知能力の発動に、アスミの意識は一気にクリアになった。全身が強張り、次に現れるであろう場景に、心臓が締め付けられる。
呼吸を落ち着かせ、何度かまばたきをすると、知らない風景が目に飛び込んできた。
体を起こすと、そこはどこかの森『だった』場所だとわかる。周りは殺伐としており、枯れた木々が亡者のように見える。
アスミの目の前には、土にまみれた崖に、ぽっかりとあいている洞穴。
そこからにじみ出てくる、吐き気を催す空気に、思わず一瞬だけ息を止める。
「ここは……」
かすれた声で呟くアスミの周りは、ただ『枯れている』の一言に尽きる。
視界が灰色になっているため、細かい色彩はわからない。
だが、それでも残酷なまでにやせ細った土地だということはよくわかった。