第4章 人と人ならざるもの、弐
「狐優! 何してるの?」
「……別に……」
とある森の奥深く。
一軒の家に、2人の人物が会話を交わらせていた。
――と言っても、そのうち一人は、明るく朗らかに、もう一人は物憂げな表情だったが。
ふわりと宙に浮かんでいる少女――山村花音は、目の前の少年に心配そうな声をかける。
「ね、どうしたの? この前からちょっと様子おかしいよ?」
「だから……君には関係ない……」
九尾である魂野狐優は、膝を抱きかかえるように座りこんだまま、ひっそりと呟く。
「もう。関係ないわけないじゃん」
「…………」
花音が少し眉根を寄せて狐優に顔を近づけるが、それを拒否するように狐優は目を伏せた。
その動作に花音も悲しそうな表情をするが、これ以上声をかけるべきではないと考え、そっとその場から離れた。
別の部屋まで浮いていくと、すでにそこには先客がいた。
「あれ? 彩夏ちゃん、どうしたの?」
「えっ? んー、ちょっとねー」
座敷童子である彩夏は、窓辺に頬杖をつきながら、外を眺めていた。花音は彼女の近くまで寄っていくと、同じように外の景色を見る。
「何かあるの?」
「神邪洞があるのっ」
「しんじゃどう?」
「うんっ。ずっと昔にね、大暴れしていろんな人や妖怪を苦しめた『物の怪』を封印してる洞穴なんだよっ」
「へぇ?」
あまり現実味のない話に、花音はきょとんと首をかしげる。
とある事情があって幽霊になった彼女だが、妖怪という存在に触れたのもここ最近の事だし、それが封印されている『物の怪』の話なんて、そう簡単に呑み込める話でもない。