第4章 昔の話だけれど
「ディオッ」
やっと帰ってきたと思うとただいまも言わずに本を読むためソファに体をしずめる。片手にはお父さんのための薬、それとどこかで稼いできたお金。
私もお金を稼ごうと家を出ようとすると酷くお父さんは怒った。何故怒鳴られているのかは全く覚えていないけれど、とても怖くて…いう事には絶対に従った。
「ディオ、あまりひとりにしないで…」
「…ハァ、姉さん、もう子供じゃあないだろ?」
見はなされたような、とても耐えきれない恐怖心に襲われた。
優しいお母さんはいない、怖いお父さんしかいない、唯一救いだったかわいい弟もどこかへいってしまった。
今世界は、私を殺しに来ているんだ。
そう思うと涙がとまらなくて部屋の隅で気づかれないように静かに泣く日々が続いた。
そして、その日はやってきた。
お父さんは相変わらず機嫌が悪く、私を殴ったりしてくる。逃げ道がないのを知っている私はそれを受け入れる事しかできなかった。
「姉さん」
ひさびさに呼ばれて嬉しくなった私はディオの方に向いた。
ディオが手にしていたのは、あの赤いマフラー。
「それ…」
「もう、これ売っていいよな」
いま、なんて
「今年の冬は厳しくなさそうだし、いつまでもこんなものいらないだろ」
「待って、ディオ」
私の言葉を聞かずにディオは赤いマフラーを手に家を出て行った。
後ろからは酒をとって来いという声が聞こえていた。
「あ、ああぁ…っ」
お父さんの声を無視して、泣き崩れた。
私から全てを奪っていったのは、ディオだった。