第11章 episodeⅠ橘 有雅
「有雅、なんだこれは。」
大きなリビング、家族4人じゃ埋まらない革のソファー。目の前の大理石のテーブルには一枚の紙切れ。
「総合点」895/900、「順位」2/360。この間の期末テストの結果が書かれた紙切れ。
それを見て父は深刻な声で僕に問う。
「黙ってちゃわからない、理由を説明しなさい。」
中学二年の冬、僕は初めて学年2位をとった。いや、正確にはとってしまった。この先祖代々、医者の家系において、2位などという順位があってはならない。
「まあくん、たまたまよね?ちょっと風邪ぎみで、ね?」
母が今にも泣きそうな顔をして、僕のフォローをする。僕のフォロー?いや違う、これは父から自分を守るためだ。
「これが僕の実力です。」
風邪なんてひいてない。力を抜いたつもりも、サボったわけでもない。これが今の僕だ。
「実力、だって?」
「まあくん・・・!」
僕の発言に緊張感が漂う。
「橘を継ぐ奴がこんなところで躓くんじゃ、こんなもので実力だなんて言葉を使うんじゃ、お前はその程度の人間だったってことか。私が間違っていたようだ。」
「あ、あなた・・・!」
父が出て行った部屋、母がすぐにその跡を追う素振りをする。そして一度こちらを振り向いて言った。
「まあくん、そんなにお母さんを悲しませたいの・・・?」
「・・・・・・。」