第7章 恋愛論Ⅵ
先輩が抱えたプリント類を図書館の机に置いて、私を真っ直ぐ見つめる。
「・・・橘、先輩。私、一年生の、初めて先輩を体育館のあの壇上で見た時から、・・・・」
意味のない時間を過ごした、先輩を想い続けたこの時間をそう思った。ただ消えるだけの想い。
でも違う、先輩には感謝してる。先輩のおかげで、毎日学校へ来るのが楽しくて、先輩を思うことが楽しくて、私の生活は明るくなったから。
「…ずっと、好きでした。」
「・・・うん、」
「ごみ捨てで会うのだって、あんなのわざとだし、初めて名前で呼ばれた時は嬉しすぎて吐きそうになったし、先輩が私のことを・・・、なんて今ではおかしいですけど、そう思っただけで、嬉しくて・・・」
「・・・宮原さん、」
先輩の顔が悲しそうな、優しい、「橘先輩」の顔。
「・・・はい。」
「ありがとう、」
「・・・・・・。」
「でも、ごめん。・・・宮原さんの気持ちには、僕じゃ答えられない。」
「・・・はい、知ってます。」
「・・・うん、」
「実は私、今の橘先輩も、嫌いじゃないんです。・・・だから、生意気ですけど、これからも仲良くしてくれますか。」
「…僕で、よければ。」
「よかった。」
あれ以来、初めて先輩に心から笑えた気がした。前に踏み出す一歩を先輩が手伝ってくれたから、私はこの人を好きになれたこと、後悔はしない。
「妹さん、上手くいくといいですね。」
「うん、」
「ありがとう、宮原。」
それは「憧れの橘先輩」からの言葉ではなく、「本当の橘先輩」の言葉。