第7章 恋愛論Ⅵ
「おはよう、杏。」
「・・・おはよう、京ちゃん。」
教室に入ると、昨日の色んなことを思い出す。
「・・・・・・」
私に元気がないのがわかったのか、京ちゃんは何も言わなかった。
「杏、」
「ん?」
「いつでもいいから。言いたくなったら言いなさい。」
京ちゃんはこういう人だ。
「・・・あ、りがとう。」
「いいのよ。」
そう言って私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「あ、久世くん、おはよう。」
京ちゃんが私の後ろ、右上に視線を移す。そこにいるのが久世だとわかった瞬間、私の体がビクッと動いた。
「おはよ、日向さん。」
久世の声になぜか体が硬くなって、熱い顔を隠そうと俯いてしまった。私の異変に京ちゃんが気づく。
「何してんの、杏。」
「あ、いや、っえっと・・・」
私がモゴモゴしていると、「へんたい、」と後ろから声がした。
「ち、ちがう!」
椅子から立ち上がり後ろを振り向くと、なんともまあ、嬉しそうに笑う久世がいた。
「・・・久世さん、さぞかし楽しそうで。」
「うん、おかげさまで。」
涼しそうに微笑んだ後、自分の席へ戻っていく。くそ、大変な人に弱みを握られた。私の高校生活、おしまいだ。
「ちょっと、杏。」
「は、はい。」
「それは聞くぞ?先輩のことは待つけど、今の反応は脅してでも聞くぞ?」
「あ、はははは、」
京ちゃん、その力の入りすぎた右手に握るシャーペンが今にも変形しそうで怖いです。