第17章 水に濡れていれば真綿は燃えはしない。~情愛~(及川・岩泉)
『もう影山の事好きじゃないのか』
一ちゃんの言葉は私の胸を鋭く貫いた。
とても痛かったけど、なんでだろうって考えたら
もしかして一ちゃんと徹ちゃんが離れていこうとしてるんじゃないかって思ったから。
あんな事されて…泣くほど嫌だったのに。
今は二人が離れていってしまう方が嫌だなんて、私もどうかしてるのかもしれない。
帰り道、前を歩く二人の背中は大きくて頼もしくて…小さい時からいつも側で守ってくれていた事を私は思い出した。
「ちゃん」
「!」
突然、回想から現実に戻される。
目の前には前を歩いていたはずの徹ちゃんがニコニコして立っていた。
「今日さ…教室まで来てくれてありがとう、嬉しかったよ」
「…!……ううん」
思い返してみると大胆な行動だったかもしれないと恥ずかしくなる。
一年生の私が三年生の、しかもバレー部の主力中の主力であるこの二人を迎えに行くなんて。
「ちゃん目立ってたね(笑)可愛すぎて及川さんニヤけちゃったよー?」
「もう…からかわないで徹ちゃん///」
ごめんね、と言いながら私の頭を撫でる。
そのまま目線を前に向ける。
ただ一人、沈黙を守るその背中に胸が切なくなる。
「一ちゃん」
声を掛けると一ちゃんはゆっくりと振り返った。
優しく見つめてくれるその表情は普段と変わらないけれど、その心情までは読み切れなかった。
温かい徹ちゃんの手、
優しい一ちゃんの視線。
あぁ、そうか。
影山くんを嫌いになったわけじゃない。
徹ちゃんと一ちゃん、二人が側にいてくれる事の安心感や愛してくれる温かさをとても大切だと気付いてしまった。