第16章 50音の最初の2つを明日君に届けます。(月島蛍)
「貴斗、お兄ちゃんにお礼言った?」
「うん、今言ったよ」
「そう…ホントにありがとう月島くん、また明日学校で」
「うん」
短くそう返事をすると月島くんは帰っていった。
見送った後、貴斗が私の制服の裾を引いた。
「?貴斗、なぁに?」
「あのね、お兄ちゃんから伝言」
「月島くんから…?」
「これ」
そう言って私に手渡してきたのは貴斗の書いたあいうえお表だった。
意図が読めず貴斗に聞き返す。
「これが…どうかしたの?」
「えっと…最初の2個を、明日お姉ちゃんにあげますって…逃げないで学校に来てねって…」
「えぇ?……………………………………!!?///」
しばらくの間、あいうえお表を眺めて考えて辿り着いた答え。
もし、この答えが正解だとしたら…私は明日どんな顔して月島くんに会えばいいんだろう…!
「最初の2個って…『あ』と…」
「貴斗!いいからもうベッド行って横にならなきゃ!ねっ?!」
「え?あ、うん、わかったー」
貴斗はきょとんとしたまま階段を上がり自分の部屋へと向かった。
勘違いだったら恥ずかしい、けど勘違いじゃなかったら?
きっと私がこうして慌ててオロオロしている事だって彼の中では予想通りなんだろう。
そう思うと何だか少し悔しくて、私は罪もない弟のあいうえお表を睨んだ。
まだまだ拙い字が並んでいるその表が何となくキラキラして見えたのは私の期待の現れなんだろうか。
脳裏にはニヤリと笑う月島くんの顔が浮かんだ。
END