第16章 50音の最初の2つを明日君に届けます。(月島蛍)
「、電話が入っているから職員室に来てくれ」
「あ、はい」
年に数回、こうして私の学校に私宛の電話が掛かってくる。
去年までは中学校に、今年からはそれが高校に変わった。
電話の相手は小学一年生である弟の担任の先生。
「はい…わかりました、お昼過ぎには行けます…給食は食べられそうなら食べさせてください、はい、はいすみませんよろしくお願いします」
「弟さん具合悪いのか?」
「あ、先生…はい、熱が出ちゃったみたいで…午後早退させてください」
「そうか、お前も大変だな…気を付けていけよ」
「はい、すみません」
こういった電話は親にまず掛けるところだが我が家の場合は少し違う。
父が居ないため、母が朝から晩まで働いている事もあり母が行けない時は私のところに掛かってくるのだ。
電話が終わって教室に戻る。
机の上に出したままのペンケースやノートを鞄にしまう。
「ねぇ」
「………」(病院に予約の電話して…あ、迎えに行く前に果物とか色々買っていこうかな…)
「ねぇってば、?」
「…っぁ、月島くん?ごめん、考え事してた…」
「…早退?するの?」
「あ…うん」
隣の席の月島くんとは特別仲が良いわけではないけれど、時々こうして話し掛けてくれる。
山口くん曰く、「ツッキーから女の子に声掛けるなんて滅多にないよ!」だそうだから…ある意味では特別なのだろうか。
そして彼は何故か私を名前で呼ぶ。
そのせいで友達に付き合っているのかと問いただされた事もある。
「具合でも悪いの?」
「あー…うん、弟がね」
「弟?」
「小学一年生なの、熱が出たみたいで…これから迎えに行くの」
うち、お母さん忙しいからと付け加えて訳を話した。
話しながらも私は手は動かして着々と帰り支度を進める。
「………ふぅん」
「じゃあ…私行くね、また明日」
「うん…また明日」
月島くんに別れを告げると私は足早に学校を後にした。