第2章 ここが校舎裏の駐輪場である事をお忘れなく。(月島蛍)
「やっぱり…帰っちゃったか……」
「誰が」
「ひゃあぁぁぁ!!…け、蛍ッ!」
振り返ると眉間に皺を寄せた蛍。その手にはミルクティーがあった。
(あ、甘党……)
「甘党とか馬鹿にしてたら怒るけど?」
「!…して、ませんっ」
「…何?」
「あのねっ!話が…!」
思い切って切り出すと蛍は更に眉間に皺を寄せる。
「日向が好きとか…そんな相談だったら聞かないけど」
「そうじゃなくて!」
「大体さぁ…が好きなのは僕だった筈だよね?」
「え…?ちょっ…!け、んんっ…」
苛々すると、付け加えた後、強引にキスをされた。
「違うの?」
唇が離れた後も私に喋る隙を与えない。
「僕の勘違い?」
見上げた蛍の顔はとても苦しそうで、何処か泣きそうで胸が締め付けられる思いだった。
なんでそんな顔するの…。
「そんなの僕が許すと思ってるの?」
ゆっくりと蛍の舌が私の首筋を這う。
やだ、私こんな…誤解されたままなんて…。
「んっ…ヤダ…蛍…」
まだ言いたいことも言えてないのに。
「…蛍っ!」
渾身の力で蛍の胸板を押し、身体を離す。
「私が好きなのは蛍なの!日向じゃない…!蛍が好きなんだよ…」
蛍の顔を見ると、眼鏡の奥の大きな目が見開いているのがわかった。
そしてその後腕を引かれ抱き締められた。
「言うのが遅い、遅すぎ」
蛍のシャツからは少しのコロンと少しの汗の匂いを感じた。
「僕も」
「……?!」
「僕も好き」
ぎゅうっと抱き締められて蛍の顔が見えない。
きっと見せないようにしてるんだろうな。
顔を見せてくれたときにはもういつものポーカーフェイスだったけれど、仕切り直しと言わんばかりのとびきり甘いキスをくれた。
「日向と喋り過ぎるの、禁止」
「えー!」
「…何?」
「イエ、ナンデモアリマセン」
「その片言流行ってんの?つまんないけど」
言葉とは裏腹に蛍の手が暖かいと知ってるのは私だけの特別な事。
この心地良さは病み付きになりそうです。
END