第11章 君と話す事は飛行機雲を掴むより難しい筈だった。(菅原孝志)
初めて彼女を意識したのはいつ頃だったろう。
違うクラス、違う委員会、違う部活。
ほとんど接点のなかった彼女を見つけたのは5月に入ったばかりの放課後。
窓の外でとても綺麗に走る君の姿だった。
陸上部なのは知ってる。
話し掛けたことはない、でも人づてに彼女の名前がだって言うことを知ることが出来た。
あれからひと月、俺は変わらずにここから君を見てる。
(ハードルって、難しいよなぁ…)
「スガ!部活行くべ!」
「おー」
俺が彼女を見ていられるのは彼女が部活を始めてから俺が教室を出るまでのほんの3分程度の間。
体育館に近付くにつれ、その姿は見えなくなってしまう。
「ん?なんかまた体育館が騒がしいな…またあいつ等、揉めてんのか?」
「あー、これは田中の声だ」
「スガ、ちょっと先行って止めてくる」
「はは…主将は大変だよな」
大方、月島の嫌味に田中が噛みついてるんだろーと思う。
まぁ、月島もわざとやってるトコもありそーだけど…。
「「あ、飛行機雲」」
ゴォーッと飛行機のエンジン音に気付いて空を見上げると1本の真っ直ぐな飛行機雲。
思わず出してしまった声にシンクロするように重なったもう一つの声があった。
「「え?」」
それに気付いたタイミングも同じ。
ただ、その後の驚きは俺の方が遥かに大きいものになってしまった。
顔を見合せた相手は先程までハードルを華麗に跳んでいた彼女。
「え!…、さん//!?」
「……?はい?」
たじろぐ俺とは正反対な反応。
一人で慌ててしまったことがとても恥ずかしく思える。
ヤバい…格好悪…っ!!
「あんなに長い飛行機雲も珍しいね」
会話を繋げてくれたのはさんの方だった。
「あぁ、うん…」
なのに素っ気ない返事を返してしまった。
俺は馬鹿か…折角初めて話せてるってのに。