第44章 僕たちのポートレート。【縁下END】
あの東京での戦いが終わって早1ヶ月。
まるであの時の事が夢だったんじゃないかと思うほどに私の日常は元の姿に戻っていた。
男子バレー部も3年生が引退して新体制となった。
新主将は、縁下くん。
これは本人からじゃなくて西谷くんが教えてくれた事。
まるで自分の事を話すみたいに「力はしっかりしてっから!」と嬉しそうに笑っていたっけ。
当の本人はと言えば、
(……やっぱり、大変なのかな…)
教室で見る彼の顔が私には時々疲れているように見えた。
私は、あの初詣の告白の返事をまだ縁下くんに返せていないままだった。
周りの事を誰よりも見て気遣って、気付けば私はいつもそんな彼の姿を目で追っていた。
それが『恋』なのだとようやく気付けたのに、その気持ちを疲れている縁下くんに伝えるのはどうしても出来なくて。
なんとなく、彼とも言葉を交わす日が減ってきてしまっていた。
「さん、ちょっといいですか?」
「は、はい…!」
教室に顔を出したのは武田先生。
私はそのまま職員室へと足を運ぶ。
「…………」
背中に、縁下くんの視線が向けられていたなんて。
全く気付く事なく教室を後にした。