第40章 僕たちのポートレート。⑤
どうしてこの子は嬉しい事ばかりするのだろう。
もう気になる子、では済まされない。
人一倍人付き合いが苦手なのに、言葉を紡ぐのが苦手なはずなのに。
向き合おうとしてくれる。
思いに、寄り添おうとしてくれる。
「………す、が…わら先輩………?」
「いきなり抱き締めてごめんな」
「……ど、どうか…しましたか……」
「うん、してるよ。が俺の喜ぶ事するから、気持ちが抑えらんなくなった」
謝りながらも腕を離す事をしない菅原の声がの耳元で響く。
「…好き、が好きで堪んない」
甘い囁きの後、抱き締められる力が更に強く優しくなる。
菅原のコロンだろうか、爽やかな香りが微かにの鼻を掠めた。
「………!?!?」
好き…?
誰が、何を…?
菅原先輩が、私を………?
バレーじゃなくて…!?
いや…バレーも好きだろう。
バレーも?
も?
私…も!?
抱き締められたまま、の思考はフルスロットルで回っていた。
いつもより数時間も早起きしたからだろうか、上手く考えられていない気がする。
それとも、包まれているこの香りのせいだろうか。
「あ、あの……菅原、せんぱ、い………」
の口から漸く出た言葉は菅原の名前を呼ぶだけで精一杯だった。
「ごめんな…こんなに早く伝えるつもり、ホントはなかったんだ、でも」
「………?」
「俺は三年だし、他のヤツに比べてもう時間がないなーって思ったら気持ちが昂っちゃって」
抱き締めていた腕を緩め、驚くの顔を見た菅原は困ったように笑った。
「でもまぁ、まずは春高だべ!」
「は、はい……!」
いつもの調子に戻った菅原には少し安心して返事を返した。
「…春高で全力出し切るから、そしたら」
「…………っ、」
ポンと、頭に手が乗せられる。
大きくてとても優しい菅原の手。
「返事聞かせてくれな」
にっこりと微笑む菅原には小さく頷いた。
写真サンキューな、と告げて菅原は公園を後にした。
ベンチに一人残ったは中々そこを動く事が出来ずぼんやりと空を眺めているのだった。