第40章 僕たちのポートレート。⑤
「っくしゅん…!」
新年。
初日の出を写真に納めたくてまだ暗い内から一人、カメラと望遠レンズを抱えては学校の近くの坂の上にいた。
ニット帽にマフラー、厚手のモッズコートに中も着込んで来たがやはり冷える。
「はぁ……」
ハートブレイクヒル。
溜め息をついた後、田中からそう聞いて激しく納得した事を思い出す。
「ここをみんな…走ってるんだもんね…ハートも、ブレイクしちゃう…よね…!」
去年も初日の出を撮りに登った坂だが重たい望遠レンズを抱えて登る事には慣れない。
歩いているだけなのに息が切れてくる。
目的の場所に着くと他の写真家の姿がチラホラとあった。
三脚にカメラをセットしてレンズも取り付ける。
狙うは、東の空。
他のカメラ達も同じ方角を向いていた。
それから30分。
ポケットに忍ばせておいたホッカイロを手で握りながら待つと、山の向こうが白んで来る。
(きた………)
カメラに手を伸ばしシャッターチャンスを待つ。
不思議とこの狙い定めている間だけは寒さも周りの人の気配も感じなくなるのだ。
カシャリ。
カシャリ。
シャッター音だけが辺りに響いた。
「あ……」
ふと、一羽のカラスが映り込む。
周りの人たちからは折角の写真が…と落胆の声が聞こえた。
去年のだったら同じようにそう思ったかもしれない。
でも、今年はちがった。
撮った写真を見返しながらはニンマリと頬を緩めた。
初日の出に向かって、飛び立つカラス。
それがバレー部の皆に重なって見えた。
「なんだか…縁起がよく見えるなぁ、プリントしよう…」
クスリと笑っては満足そうに坂を下った。
日本一を目指す、彼らを思いながら。