第38章 僕たちのポートレート。③
でもどうして縁下が名前で呼んでるんだ、なんて聞くのは躊躇われて。
菅原は違う形で問い掛ける。
「俺もって…呼んでいい?」
「えっ………」
予想外過ぎた菅原の言葉には一瞬固まって…そして次の瞬間には顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
「あー…2年連中がさ!呼んでるの聞いて俺もって思って。ダメ?」
「い、いえ…!ダメだなんてそんな…っ」
「うし!じゃあ決まりな!改めてよろしく、」
「はい…!」
分かれ道でと分かれた後、菅原は一人胸を撫で下ろした。
余裕ぶって、笑って見せていたけれど本当は内心バクバクしていて怖かった。
嫌がられて断られたら折角ここまで開いてくれた心も、また閉ざしてしまうだろう。
「それは嫌だもんな…あー良かった!」
菅原のそんな独り言は夕闇の空へと消えていった。
一方もここ数日の出来事に頭が追い付いていなかった。
今まで異性との絡みなどほとんどなかった高校生活だったのに今はどうだろう。
(パンクしそう……)
いつも優しく助けてくれる縁下の笑顔が脳裏に浮かぶ。
冷たい視線のはずなのに、どこか熱を持った月島の視線が忘れられない。
、と嬉しそうに呼ぶ菅原の顔が頭から離れない。
この数日はにとって濃過ぎるものばかりだ。
パソコンの画面上で真剣な中でも楽しそうにバレーをする彼らをはじっと見つめた。
東京まで、春高バレーまであと少し。
Trrr…
不意にのスマホが鳴り出した。
「武田先生……?…もしもし、あ、はい…!大丈夫です……え?そ、そう言う事なら…はい、私やります…!」
武田からの電話を切った後、は顔をパチンと叩いてパソコンに向かう。
真剣に取り組む彼らの為ならなんだってやろう。
この話を初めに引き受けた時は逃げ出したい気持ちが勝っていたはずなのに、いつの間にかそんな気持ちは全くなくなっていた。
それどころか睡眠の時間を削って作業する事も苦だと思わない。
はマウスを動かしながら画面を見つめ、編集作業に没頭する。
その時間は深夜を過ぎても終わる事はなかった。