第38章 僕たちのポートレート。③
校内がお祭り騒ぎになった文化祭。
その渡り廊下の一枚の壁にその写真はあった。
「山口、先に行ってて」
「?ツッキーどうしたの?」
「いいから」
「う、うん…!わかった」
目的もなくつまらなそうに校内を山口と歩いていた月島がその日初めて自分から足を止めた。
それほどまでに、惹き付けられた。
写真部。
そんな部がこの学校にあったなんて知らなかった。
チラリと渡り廊下の隅を見るとこの小さなブースの主であろう女生徒の姿。
彼女は、月島に気付く様子もなくただ窓の外の空を眺めていた。
だが月島には空ではなく、もっと何処か遠くを見つめているように見えた。
(……何を、)
そう思って同じ様に窓の外に視線をやるも、答えが見つかる筈もなく、月島は再び写真に目を向けた。
(……綺麗)
素直に感情を表す方ではない。
自分でもそう思う月島が素直にそう感じた。
声を掛けてみようか、そう思った時ーーーー、
「あれ?月島じゃん!こんな所で何やってんだ?」
聞き覚えがある騒がしい声にげんなりしながら振り向くと、首から大きなプラカードを下げた見知ったオレンジ頭。
「……別に、君には関係ないでしょ」
「なんだよ!もー!あっ!後で山口とうちのたこ焼き買いにこいよなー!」
溜め息をついて月島はオレンジ頭、もとい日向に冷たい視線を送る。
「そう言うのは田中さん達に頼みなよ」
それだけ言うとさっさとその場を立ち去った。
それから、文化祭が終わって月島の頭からはすっかり抜け落ちていた彼女の存在。
それが縁下の隣を歩く姿を見掛けた事で月島の記憶が甦る。
(……あのウザったそうだった前髪がない)
2年生なら縁下と知り合いでも不思議はない。
そんな事を思いながら月島は遠ざかる二人の背中を見送った。
これでの存在は月島の記憶から再び薄れていくはずだった。
翌日の、体育館で彼女と二度目の再会をするまでは。