第34章 魔法をかけて。(及川徹)
「憧れていた人が、いたの」
「…」
「多分、大学生で…多分この街の人」
「多分って…」
「話したこともないから…多分。私が憧れていただけなの」
及川と目を合わせることなく、は地面を見つめてそう話した。
図書館で時々見かけ、知的で優しそうなんて勝手に憧れて。
「今日は彼女と一緒だった」
「…それも多分?」
「…だったらまだ良かったんだけど、これはきっと間違いない」
帰り道に仲睦まじく寄り添ってキスをしていた。
は偶然それを見てしまったのだ。
好き、だったのかもしれない。
二人のそんな様子を見て初めてそう自覚した。
そして自覚したと同時に失恋。
自分の鈍さに笑いさえ込み上げてきてしまう。
「ごめんね、徹くんだって忙がしいのに…迎えに来させて」
「………」
「ちょっとだけ、泣いたらスッキリした!まるで……魔法が溶けたみたい」
恋の魔法。
は昔から妖精やら魔法やらそういった童話の話に例えて話をする。
その度に笑って話を聞いていたが、今の及川はとても笑う気にはなれなかった。
「ちゃん」
及川の声が響いた。
こんな所に一人で、自分の知らない男を想って泣いている。
自分の好きな子が、だ。
「と、徹くん…?」
及川はベンチに座るの前に膝間付いて手を差し出した。
「…どれだけソイツがイイ男だったかは知らないけどさ、ちゃんの王子様は昔から俺って決まってるんだよ」
「!…と、徹くん…」
戸惑うの手を取りそのまま引き寄せた。
「…好きだよ、俺のお姫様」
「………っ!」
耳元で囁かれた甘い言葉。
「魔法が溶けちゃったなら…俺が掛け直してあげる、ずっと溶けない魔法をね」
「あ、う…//と、おるくん…?」
昔から恋してきた女の子。
恋の魔法を掛けてもっと綺麗になるのなら、それをするのは自分以外許さない。
「あの、徹くん…今の、ホントに…?」
赤く色付くの頬を手で撫でると及川はニッコリと笑った。
「お姫様を迎えに行くのは王子様の役目…ーーー」
でしょ?と首を傾げて及川は笑った。
つられる様にしても笑う。
差し伸べられた手を取って。
to be continued…