第34章 魔法をかけて。(及川徹)
部活が休みの月曜日、及川は岩泉と本屋に寄り道をして今日発売の月バリを買って。
夕方、家に帰る。
夕飯を食べ終え、部屋で月バリの表紙を捲るとそこに現れたのは白鳥沢の文字と及川が最も見たくない男の写真だった。
春高県予選決勝を控えている白鳥沢を、牛島若利を特集した記事。
写真の牛島を思い切り睨んでページを飛ばしたところで玄関から自分を呼ぶ声がした。
「徹くん!!!」
「あれ、おばちゃん?久しぶりー!」
「挨拶してる場合じゃないのよ…うちの、何処にいるかわからないかしら…」
「ちゃん?」
「帰ってないの、連絡もなしにこんな時間まで帰らないなんて初めてで…」
及川家の二軒隣に住む家。
そこの一人娘がである。
幼い頃から本の虫と言って良いほどの文学少女で及川と岩泉が公園でバレーの練習をしている隣に腰掛けて本を読んでいた。
親の言うことを素直に聞く良い子。
そのが連絡もなしに帰宅しないとなると親は大騒ぎなのだろう。
「おばちゃん、俺が探してくるから落ち着いて」
「徹くん…!」
「何となくだけど思い当たる場所があるから、見つかったら連絡するよ」
の母親には自宅で待つように伝え、及川は外へ出る。
向かう先はただ一つ。
この街に唯一ある図書館。
は絶対そこにいる。
「………見つけた」
図書館はとっくに閉館していて中の電気も消えていた。
その入り口のすぐ側のベンチには俯いて座っていた。
及川はゆっくりと近付いて声をかけた。
「…こーんな時間まで一人でいたら悪い人に拐われちゃうよ?オヒメサマ」
こんな時間と言ってもまだ18時。
高校生が出歩いていてもおかしくはないのだけれど。
「……!徹、くん…」
声の主に驚いては勢い良く顔を上げる。
及川はいつもと違うの雰囲気に気付いた。
そしてそっとの目元に手を寄せた。
「…ちゃん、泣いてたの?」
一瞬、まずいと言う顔をしては再び俯いた。
「ちゃん何があっ…「夢から醒めただけなの…大丈夫」
「夢って……」
及川はの隣に腰掛けた。