第31章 その顔を知っているのは俺だけでいい。(弧爪研磨)
「けーんまっ!オーイ、いんだろー?!」
「……クロ、うるさい」
「聞こえてんのに顔出さない研磨クンが悪いと思うけどねぇ?」
外から孤爪を呼ぶ事3回。
ようやく2階の窓が開き顔を出した孤爪を見て呆れ気味に黒尾は笑った。
「何か用事…?」
「や、用はねーんだ、出掛ける用がこの後あるんだけどまだ時間が早ぇんだ、少し部屋で待たしてくんねぇ?」
「誰かと会うの」
「デートよ、デート♪」
「自分の家で待てばいいのに…」
「まぁ、そう言うなって!お邪魔しますっと」
面倒だとあからさまに顔に出す孤爪を無視して黒尾は玄関の戸を開け軽快に階段を上った。
「おーっす…ってもいたのか」
「いたよ、部屋の中までクロの声超聞こえた」
「お前らな…気付いてるならどっちか早めに顔出せよ、俺だって恥ずかしっつの」
「手が離せなかったの」
は孤爪と黒尾、二人の幼馴染みで孤爪とは恋人関係にあった。
二人のデートと言えば専らお部屋デートだった。
孤爪に負けず劣らずもかなりのゲーマー。
黒尾の呼び掛けに応えなかったのも二人揃ってスマホゲームの真っ最中だったから。
「クロ、また新しい彼女?」
「ん?あぁ、まーな!」
「今度はどんな人?」
「女子バレー部の主将、お前も見た事あんだろ」
「あぁ、あのちょっとエロい感じの…あ、負けた!」
黒尾の話を聞きながらだとゲームの操作に集中できず、画面上での操るキャラクターはあっさりと負けてしまった。
「もう…クロのせいで負けちゃったじゃん!」
「ハァ…お前らもたまには外出たりしろよな」
「お金掛からないし家の方が落ち着いて楽だもん、研磨もそうでしょ?」
「うん」
恋人同士だと言うのに全く色気のない会話をしている幼馴染み二人に黒尾はガックリと肩を落とした。
「お前らなぁ…じゃあアレだ、お前らキスとかまだなワケ?」
黒尾の言葉には目を丸くした。