第29章 ガトーショコラで治らない彼の機嫌を治すには。(月島蛍)
会わなかった一年間は彼を更にツンデレにした。
高校入学を迎えたこの日私は強くそう思った。
「蛍、久しぶり」
クラス割りを見て名前を見つけた時は驚いたけど、それよりも嬉しいって気持ちの方が勝っていた。
目を丸くして少し口を開いて固まっている彼の顔を見れたのはレアだと思う。
すぐにポーカーフェイスに戻ってしまったけれど。
「…?」
「うん」
「…烏野だったんだ」
中学二年生の終わりに転校した私と蛍はこうして高校で再会した。
小学校の頃からよく遊んでいたのに、急な転校決定と思春期真っ盛りな年頃だった為かちゃんとしたさよならも言えずにいた事を私はとても悔やんでいた。
「また会えるなんて思ってなかった!嬉しい」
私は素直な気持ちを言葉にする。
何も言えずに後悔するのはもう嫌だったから。
それを聞いて蛍は顔を背ける。
「そんな恥ずかしい事、よく平気で言えるよね…」
机に肘を着いたまま蛍は小さくそう呟いた。
「ちゃん?!」
「忠ー!久しぶり!」
「クラス割りで名前見つけてもしかしたらって思ってたけど…やっぱりちゃんだったんだね」
「何、山口この事知ってたわけ?」
「イヤイヤ!確信はなかったんだよ…ツッキー自分の名前だけ見たらすぐに行っちゃうしさ…」
「人混みにいつまでもいるの嫌だったから」
「ふふ…なんかこのやり取りも懐かしい」
蛍と忠のやり取りも昔から変わらない。
クールな蛍と蛍の態度にアタフタする忠。
またこの光景を見られた事に思わず笑ってしまった。
「「…………」」
「……何?」
一人で笑う私を二人はじっと見つめて驚いているようだった。
「ちゃん…会わない内に、その…//」
「…もう体育館行くよ、入学式から遅れるつもり?」
「あ、うん!私お手洗いに行ってから行くね、先に向かってて」
忠が何か言いかけたけれど、蛍がそれを遮るように言葉を重ねる。
「山口、余計な事言わないでくれる?」
「ごめん…ツッキー、でもさ思わなかった?ちゃん、凄く可愛くなってるって」
「…………別に」
私の知らない、そんな二人の会話。