第4章 君を手に入れる為に裏切る痛みを感じるかどうか。(赤葦京治)
見ているだけで十分だった筈なのに。
自分の中にこんなにも欲深い黒い思いがあるなんて初めて知った。
「赤葦ィー!!」
「ちょっと光太郎っ…朝からそんな大声出したら赤葦くんビックリするでしょう」
振り返ると、木兎さんとさんの姿。
さんは木兎さんの幼なじみで彼女であり、俺が……
「おはようございます、さん」
欲しくて欲しくて堪らない人。
「赤葦っ!俺にも挨拶だろーっ?!」
「木兎さんは朝練で会ってるじゃないスか」
「何回言っても良いんだぜーィ!!」
「もう、光太郎ウルサイ!おはよう、赤葦くん」
木兎さんの背中をぺちっと叩いたさんは俺に向き直り笑顔を見せた。
「さんも今朝は早いんスね」
「うん、生徒会で作らなきゃならない資料があってね」
もうすぐ総会があるから、と言う彼女は少し疲れているようにも見えた。
「あぁー!!やっべー!課題出すのに職員室行かなきゃなんねぇんだったぁー!」
「課題?」
「昨日の英語!」
「昨日のって…早く行っておいで、光太郎」
「おうっ!また後でなーっ☆」
まるで台風のような木兎さんがいなくなると途端にその場が静かになる。
「それじゃあ、私も行くね」
「あ、さん」
「ん?」
立ち去ろうとするさんを引き留めてポケットからドリンクを出して手渡した。
「赤葦くん…これは?」
「さん、疲れてそうでしたから…栄養ドリンクです、良かったら」
「わぁ、ありがとうっ」
お礼を言って去る彼女の背中を見送る。
どうしてそうやって素直過ぎるの。
俺をもっと疑わなきゃだめですよ。