第24章 シャワーの後で抱き締めさせて。(及川徹)
やっぱりモヤモヤしている。
ボールをいつものように磨いていても、静かな体育館にいても落ち着かない。
「変だ、私…」
二つ目のボールへ手を伸ばした時だった。
「やっぱりここだった!!良かった~」
声に驚いてボールから扉に目線を移せばそこには及川先輩の姿。
「え…なんで……ここに…」
驚き過ぎてうまく言葉が出ない。
先輩達といた筈なのに、何故この人は今目の前にいるんだろう?
「部誌、一緒に見て貰っていい?」
ドキリと胸が鳴った。
けれど、その場から逃げるなんて出来ない。
観念した私は小さく頷くしかなかった。
「一箇所だけスコアが逆になってる所があってさ、書き直せる?」
「なんで…私に……?」
集中して書けなかったからきっと間違えてしまったんだ、でも…今日の部誌は記入者名を先輩の名前にしたはず。
瞬きを何度もしていると及川先輩はニッコリ笑って答えた。
「だって書いた人じゃないとわからないでしょ?」
お見通しだと言わんばかりのウィンクを私に向ける。
「あの子達に聞いたら急にしどろもどろになっちゃってねー、あぁやっぱりってピンときたよ」
部誌を渡しながら及川先輩は優しく私の頭を撫でる。
「紅白戦中にあの子達がスコアをメモってるの今年に入って見たことないし…字体を少し変えたってわかるよ、仕事一生懸命こなしてるのは誰かなんて及川さんはちゃんと知ってるんだから」
「…及川、先輩」
視界が歪む。
心に掛かっていたモヤモヤが晴れていく。
あぁ、私はこの人に本当はわかって欲しかったんだ。
気付けば涙が頬を伝っていた。
そんな私の顔をを大きな手が包み込む。
「ホントは…抱き締めたいんだけどまだシャワーしてなくて汗臭いから我慢シマス」
「……///」
一気に私の顔は赤くなる。
目線を及川先輩に向けると困ったように目を逸らされた。
「ダメ、そんな顔で見ないで!あぁもう…ソッコーでシャワー浴びてくるから!ここで待っててね!?」
「え?あ、先輩…?」
「そしたらちゃんと、抱き締めさせて」
「……!」
バタバタと走って行ってしまった及川先輩を見つめながら言われた言葉を思い出す。
「どんな顔で、待てばいいの……」
まだ熱い顔を押さえながら私は部誌を開くのだった。
END.