第1章 ノクターン
「おい!黄瀬、おせーよ!そこのターン、モタついてっと捕まるぞ!」
「あーい…。」
梅雨入りもしてないって言うのに連日の雨。
今朝は久しぶりの晴れで朝から気分も良かったのに、
雲行きは午後から怪しくなって練習開始と同時に雨粒は落ちてきた。
そのせいでオレのテンションも急降下。
練習も思うように集中出来なくて…ホント雨は憂鬱なんスよ。
「黄瀬、ちょっと来い。」
休憩時間に入った途端、笠松センパイから呼び出された。
「ほら。」
目の前に差し出されたスクイズボトルを受け取るとオレは一気に喉を潤した。
「悩みでもあんのか?」
「ないっス。」
「どっか具合悪いのか?」
「そんな事ねーっスよ。」
オレを見上げていた青灰色の大きな瞳が何かに誘われるように体育館脇の花壇に向けられた。
その視線の先を辿ると、大きな葉っぱの上を転がる雨粒。
紫や青の花をつけた紫陽花が咲いていた。
「黄瀬、誰でも気分がノらねぇ時はある。
そういう時はしっかり休め。今日は居残り練習ナシだからな。」
「イヤ…オレ別に…
「コレは先輩命令だ。心配するな、明日からまたみっちりシゴいてやる。」
そう言ってセンパイは何時もよりも弱めにオレの肩にパンチをした。