第9章 特別編 1
4月2日……嬉しいような、嬉しくないような……そんな、新年度2日目。毎年この日は、私を少し、憂鬱な気分にさせる。
「優奈、ごめんね」
朝の7時、きっちりと仕事着をまとった母が、玄関で申し訳なさそうに言う。
「大丈夫。お母さん、あんまり無理してきちゃダメだよ。別に、ケーキとかは明日でもいいんだから!」
「ごめんね。行ってきます。」
「いってらっしゃい! 気を付けてね!」
新年度早々出勤の母を見ると、やはり少し、悲しいような、寂しいような気分になる。もう高校1年生なんだから、気にするほどのことでもないはずなのに。
そう、私は、今年度から青春学園高等部に、めでたく進学した。といっても、内部進学だし、始業式は4月8日。クラス発表もまだだし部活に所属していなかった私は、友人と遊びに行くような約束もなく、春休みは、専ら、図書館で借りた本を読み耽っていた。
それは今日、4月2日も例外ではなくて。
私の家族構成は、父と母と私の3人。父は、単身赴任で兵庫県在住で、東京の実家には、母と私の2人で暮らしている。母は、某化粧品メーカーに勤務していて、月曜から土曜まで、仕事に出ている。
けれど今日だけは、休む予定だったのだそう。私の、誕生日だから。だけど、新年度早々、新入社員歓迎会を行うという話になり、それが今日、4月2日になったというわけだった。母は、行くつもりはなく、その旨は社員の方たちに伝えていたのだそうだけど、勤務期間も長く、それなりの役職についている母が出席しないというのは、会社としてどうなのか、という話になり、出勤と、歓迎会への参加が決まった。
当初の予定では、今日は1日、母と出かける予定だった。ショッピングモールに行こう、と話していたのだけど、歓迎会後、帰宅すると、23時を軽く過ぎるので、その予定は中止。