第12章 【夏目友人帳】 夏目貴志
俺が、藤原夫妻に引き取られ、ここに転校してきてからしばらく経った頃、同じクラスに女の子が転校してきた。
俺が言えることじゃないとは思うけれど、正直、季節外れの転校生だったから、少し驚いた。彼女の名前は西嶋優奈さん。大人しそうな、物腰の柔らかそうな雰囲気の子だった。
彼女が、一人暮らしをしていると知ったのはつい最近の話。そして、両親ともに他界していると知ったのも。
「優奈ちゃん、もしかしてお祭りに行きたいの?」
西嶋さんから声をかけられるまで、俺と一緒に話していた、多軌が先に声を上げた。
多軌に視線を向けて、ほんの少し目を丸くした彼女は、言葉を紡いだ。
「うん……私、お祭りなんて行ったことないから……」
寂しそうに、小さく呟く彼女の姿が目に映る。
「なら、一緒に行こう」
え、と瞳を瞬かせて、西嶋さんが驚いた表情をする。
と、同時に、俺自身、あれ、と思った。自分でも気づかないうちに、声に出していたから。
「一緒に……行ってくれるの……?」
戸惑いがちに小声で聞き返してきた彼女に、今度は力強く、自分の意思として頷いてみせた。
「あぁ。ちょうど、多軌と田沼とも、そんな話をしていたんだ。だから、西嶋さんも一緒に行こう」
そう声をかけると、ふわりと顔を綻ばせて、彼女は頷いた。とても、嬉しそうに。
「優奈ちゃんも一緒ね、やった! それじゃ、田沼くんにも伝えなきゃね!」
多軌も、女の子が一緒に行けることを嬉しく思っているのか、はたまた、転校生が自分から声をかけに来てくれたことに嬉しく思っているのか、定かではないけれど嬉しそうに、教室を駆け足で出て行った。行き先は、田沼のところだろう。