第10章 【名探偵コナン】 安室透
一週間お仕事を頑張って、やっと迎えた土曜日。それは、私にとって、自分へのささやかなご褒美の日。
カランカラン
ドアを開けた時に鳴るこの音は、私にとって、ご褒美タイムのスタートを報せる鐘の音。
「いらっしゃいませ」
次いで聞こえてくる男性の声に、私の心は高鳴る。
声を聞いてから、ゆっくりと顔を上げると、そこには勿論、私が会いたくて仕方がなかった人……降谷零さんがいる。
「優奈、いらっしゃい。いつものでいいですか?」
「うん、お願いします、“透”さん」
私の恋人である、降谷零さん。ある組織への潜入捜査のために、今は名前を変えて、“安室透”と名乗り、喫茶ポアロでアルバイトをしている。組織や、彼の本職とは関係のない、一般人の私だけれど、お付き合いをするのをきっかけに、零さんは、全て教えてくれた。
「お待たせしました、優奈。」
零さんが、ブレンドコーヒーを手に声をかけてくる。
土曜日の閉店間際のこの時間は、ほとんどお客さんが入らない。現に今も、私以外にお客さんはいなかった。それをいいことに、零さんと私は2人で向き合って腰掛け、話をするのが常だった。ちなみに、この時間、梓さんとマスターは気を利かせて席を外してくれる。勿論、他にお客さんがいない時だけ。
「ありがとう、透さん」
他に誰もいないからって、零さん、なんて呼べない。プライベートで出かけているときだって、滅多に呼ぶことができない。……どこで盗聴されているかわからないから。
だけど、それでも良かった。彼と一緒に居られるなら。