第1章 終わりの始まり
私が幽霊になったのにはわけがあるんです。
飛び降りた後、嘘か本当か。こんな夢を見たのだ。真っ暗な世界に、人形のような綺麗な顔をした男の人に出会ったのだ。
「日向葵、だな。」
「……はい。」
「我は神なり。」
「……」
「あ、ひかないで?大丈夫、中二病じゃないから。」
「…人見知りなんです。」
「そうなの?君、人見知りか!しかしまぁた変な時期に死んでくれたよ。今年の冬は大忙しで君にかまってる暇がないんだ。
悪いけど、幽霊になって!」
以上。
気がついたら自分の葬式に出席していた。
泣いていた弟に向かって現実を受け止められなかった私はあの手この手で気づいてもらおうとそれは恥ずかしいことをしまくっていた。
まぁ何はともあれ、今は人見知りをすることもなく元気にやっている。
………というのは嘘である。
例えば、今、とか。
「笠松先輩!帰りにラーメンでもどうっすか?」
「黄瀬のおご(り)です!」
「奮発するっすよーー!」
「…いや、いい……」
海常高校バスケ部の帰り道。後輩の誘いを断っているのは笠松幸男くん。私の彼氏だった人。
「やっぱり元気ないっすね……」
「しょうがねぇよ、彼女さんが何も言わずに突然、自殺したんだか(ら)な…」
「………すみません。」
聞こえるはずもないが、そう呟いた。
「…なんか寒くないっすか?」
「か、風邪ひいたか…?」
あぁ、それも私のせいですごめんなさい。
私が死んだのは冬だったのに、もう随分と暖かくなっている。
冬服のセーラー服にマフラー、インフルエンザ対策のマスクをしているので、暑いかなと思ったけど幽霊だとそういうのは関係ないらしい。
ふと、一人で帰る幸男くんが視界に入る。私は小走りで彼に追いつき隣を歩く。
「暖かくなったね。バスケ、どう?」
何も答えないとわかっていながらも、私は話しかけた。
「葵…?」