第1章 1
ーー物心ついた時から黒が好きだった。
葬列などは本当に綺麗だと思い、悲しい空気は感じとりつつも、いつもどきどきしながら見ていた。そんなだから老人には相当嫌われた。
歳を重ねると鉄が好きになった。磨き抜かれた鉄の色はなにより私を高揚させた。金属が貴重な中、鉄が大量に見られる場所、と考えて兵士に志願したのは我ながらやりすぎだったと思う。が、やってしまったことは仕方ない。
武器の整備の授業で砲に触れた時はもう舞い上がって、磨きに磨いて爆笑された。上官にはこっぴどく怒られた。そんな暇があるなら各部の調整をしろと。私は悲しくて悲しくて、砲を磨く時間を作るために他の作業を徹底的に速くした。修理を超特急で終わらせて、砲の体を磨きに磨きに磨いた。外側は勿論、中も磨いた。ほんの小さな瑕も消し、つうるんつるんのぴっかぴかに磨き上げた。ついに上官の部屋に呼び出された。でも、もう殴り殺されても悔いはないと思った。
しかし予想は外れ、私は殴り殺されなかった。苦虫を噛み潰したような顔をした上官の隣には、金髪をぴっしりと整えた立派な人と、赤茶の髪を無造作に束ねた眼鏡の人が立っていた。二人の胸には調査兵団の印が輝いていた。
「君が噂の研磨職人だね」
握手を求められて、なにがなんだか分からなかったが、彼らの説明によるとこういうことらしい。
一つ目は、私が研磨の時間を作るために行った補修作業の効率化が、画期的なので採用したいということ。
二つ目は、内部を徹底的に研磨したことによって、射出時のエネルギーのロスが減り、格段に飛距離が上がったこと。
三つ目に以上の功績を称えてぜひ調査兵団の兵器開発部にこないかということだった。
鉄ならいくらでも触れるよ、と言われれば断る理由はなかった。
そんなわけで私は鳴り物入りで調査兵団・兵器開発部に配属され、娘が死ぬ危険性の低い部署に入ったことを両親は大いに喜んだ。