第5章 何度でも
子供が抱えるには少し大きいカバンを持って車が停めてある正面玄関へ向かう。
するとボクの左手が軽くなる。
「お荷物は私が持ちます。」
父よりも歳上の執事が、屈んでボクに目線を合わせて微笑んだ。
無言で頷くと、その執事はテキパキと他の使用人に指示を出した。
車に乗り込むとボクはすかさず運転手とその執事に告げた。
「きょうは、せんせいのところにとまる。」
「さようですか…ですが急に仰られても先生も困るのではないですか?」
センセイが…こまる…?
小さなボクにそんな発想が有るはずもなく、
執事によって引き戻された現実にボクは戸惑った。
「センセイはこまるのか?」
「先生も征十郎様をお迎えになる準備が必要かと思います。
お泊まりになるのはまたの機会にされたらいかがですか?」
先生はボクが守ると決めた。
その先生を困らせてはイケナイと思ったボクは執事の言葉に同意した。
「ならば、しゅくはくはまたのきかいにしよう。」
「そうですね。先生をお招きしてもいいですしね。」
執事はそう言ったがボクは分かっている。
ボクの家に招くなんて事は無理だと言う事。
ボクは先生の笑顔を思い浮かべながら窓の外に視線を移した。