第3章 桜雨
「何を話しているのかなんて分からなかったわ。相手の顔も分からなかった。
だけどね…風に舞った傘が地面に落ちて、その傘を拾おうともせずに雨に濡れていく
アナタの後ろ姿は、アタシにはスゴく綺麗だったの。
こんな風に思うのはおかしいかもしれないわね。
だけど、結い上げられた長い髪から残された毛束が雨に濡れてその細い領に纏わりつくように
張り付いて。舞い散る花びらが彩りを添えていく濡れた髪。
その瞬間、アタシは一目惚れした。
だから、アタシにとっての長い髪は特別なのよ。
だから、アタシは長い髪が好きなの。」
俯き加減の。
小さな肩が儚くて…守ってあげたい。
そう思ったアタシは他の生徒の目も気にする事なく抱き寄せた。
「…大好きよ。だから笑って頂戴。」
腕の中では静かに頷いた。
そっと身体を放して、覗き込むように屈むと何処からか舞い込んできた桜の花びらが、
の長い髪に留まった。
「ずっとアタシの側に居て。アタシの為に、その綺麗な髪を長くして。」
そっと額に口吻を落すと頬を染めたが言葉を返してくれる。
「玲央、ありがとう。」
来年もその次も。
アタシは桜を見る度にアナタに恋をする。