第3章 桜雨
ザァー…
朝から降り続く雨。
(今日は久しぶりの休みだって言うのにツイてないわね。)
雨で緩くなった足元に溜息を吐きながら、
お目当の参考書を手にしたアタシは雨で濡れないように、
胸に抱えて本屋さんからの帰り道を急いでいた。
本屋さんから寮までの道程に小さな公園がある。
今日は流石に誰も居ない…そう思っていると、
見覚えのある背後姿が目に入った。
同じクラスさん。
可愛らしい仕草が評判で隠れファンも多い。
いつもサラサラの綺麗な髪の毛が今日は無造作に結い上げられていて、
意図的に残された毛束は風がふくとふわっと揺れている。
桜の樹の下で…紫色の傘を差す彼女の前にはもう一つ人影がある。
彼女の傘で顔は確認出来ないけれど…相手は男。
雨の重量に耐え切れず舞い散る桜の花びらがさんの傘へ留まる。
アタシは何と無く目が離せなくて、その場に佇んでしまった。
暫くすると、男が踵を返して…さんが手を伸ばすと、
その男はさんの手を振りほどいた。
その拍子にさんの傘がふわっと宙に舞って…静かに地面に着地した。
傘を拾う事もせずに濡れていく彼女の姿はあまりにも切なくて。
それでも、雨粒が濡らすうなじがすごく綺麗で…
相変わらず舞い散る桜の花びらは彼女の髪に彩りを添えて、
ギュ…と胸を鷲掴みにされたようになったの。