第1章 そして…儚さを知る
“……ち….きち”
暖かな春の陽気に誘われて手放した意識が覚醒するのは、
決まってコイツがオレを呼ぶとき。
家が隣で幼馴染。
片手で持てるんじゃねーかってくらいにちっこいコイツ。
ガキの頃から何かと纏わりついてくる。
たまに鬱陶しくも感じながら邪険に出来ないのは、
小動物をイジメているような感覚に囚われて罪悪感が湧く。
まぁ可愛いと思わなくもねぇ…が。
昼メシを食って、食欲が満たされると次は睡魔。
あまりの心地よさに瞼を上げるのがメンドクサイ。
だけどそろそろ起きねーと雲行きが怪しくなりそうだ。
「永吉!!!起きてるんでしょ!」
ほら…な?
大きな声とともに与えられた胸の振動に思わず笑いがこみあげてくる。
「ぶっ…ッハハハハハ!!! わりぃわりぃ。」
目を開ければ膨れっ面のが居た。
「もう!絶対起きてたでしょ!」
「ンあ?! 気持ちよく寝てたよ。誰かさんが起こさなきゃな。」
「いくら暖かくなったって言ってもこんな所で寝ると風邪ひくよ!」
「そんなに柔じゃねーって。」
ガハハと笑いながら起き上がるとは呆れたように息を吐き出した。