第65章 【強制隔離宣言?あるいは花火の思い出】
「あれ。」
ここで気配を感じたかのように美沙がふと呟く。
「兄さん、皆さんがおらん。」
力はえ、といい、
「嫌な予感がする。」
しばらく辺りを見回してから力は離れたところにいる成田を見つけた。目を合わせた瞬間成田はごまかし笑いをしてそっぽを向き、呆れた事に木下もそれに倣(なら)う。その周りにいた烏野の連中もやばいバレたといった様子でそっと逃げようとしている。たちまちのうちに力の顔から表情がなくなっていき、美沙も状況に気づいた。
「兄さんこれは」
「美沙、行くよ。」
「わかった。」
兄妹は手を繋ぎ、下駄を鳴らして仲間の所へ進んでいく。烏野の一行は当然大騒ぎになった。
「やべっ、こっちくるっ。力も美沙もゲキ怒りだっ。」
「くっ、ついノッちまったのはいいがやり過ぎたぜ。」
「よーし、みんな逃げるぞー。」
「ススススガ、ちょっと待ってっ。」
「いいからでかい図体動かせこのひげチョコ俺が進めないだろっ。」
「清水先輩、わわわ私美沙さんに許してもらえるでしょーかっ。」
「大丈夫と思うけどとりあえず行こう。」
「どうしよう今度ボタン取れたら俺美沙に助けてもらえないっ。」
「今心配するとこそこか日向ボゲェッっ、つーか何で俺まで。」
「それむしろ僕の台詞なんだけど。」
「傍観してたんだから今回はツッキーも同罪だよ、うわあああ。」
「待てーっ、成田っ、木下っ、お前らまでどーゆー事だよっ。」
「わりい、今回は俺と成田が元凶ー。」
「余計あかんわーっ。」
「やっぱり逃げるか、木下。」
「りょーかいっ。」
「ええ加減にしぃやーっ。」
逃げる男子排球部の連中、追いかける縁下力と美沙の義兄妹、夏の夜空の花火を背にして少年少女はバタバタと駆けていく。
「兄さん、どないする。」
「大地さんまで一緒になって、もう。でもお前足大丈夫かい。」
「うん。」
「じゃあもうちょい頑張るか。」
そうやって入り乱れて色々あったそれは二度と戻らない夏の思い出だった。
次章へ続く