第63章 【強制送迎宣言あるいは混沌】
美沙は籠バッグからスマホを取り出して義兄に音声通話をかける。横で及川が俺が美沙ちゃん発見したのに岩ちゃんが独り占めしてるなどと訳のわからないことを喚き岩泉に黙れクソ川と返されていた。
「しもしも、兄さん。」
美沙が通話口に向かって呟くとスマホの受話口から及川よりも落ち着いた穏やかな声が返ってきた。
「美沙、丁度良かった。ちょっと遅いなって話をしてたんだ。察するに」
「方向音痴のスキルが発動しました。」
「ネタの出どころはゲームだな、ろくにやらない癖に。それはともかく戻れそうか。」
「いいんか悪いんか連れてってもらえそう。」
「どういうこと。」
一瞬の沈黙の後に尋ねる義兄に美沙はこれヤバイやつやろかと考える。
「えとその、」
「はっきり言ってごらん、怒るかどうかは考える。」
「ひいいっ。」
美沙が叫んでいると横から岩泉が割って入った。
「ええい、相変わらずまどろっこしい兄妹だなっ。」
「あっ、ちょっ。」
「岩ちゃんが割り込んだっ。」
「めっずらしいな、おい。」
驚く及川と花巻を他所に岩泉は戸惑う美沙のスマホをひったくる。
「おい、烏野6番。」
「えっ、岩泉さんっ。」
大きめに設定してある通話音量のせいで動揺する力の声が聞こえた。
「おめえんとこの迷子の妹拾ったからそっち連れてく。」
「あ、その、助かります。」
「どこで別れたかは本人から聞いたけどよ、まだお前らそこにいんのか。」
「ええ、動いてません。」
「んじゃ後でな。」
「は、はい、よろしくお願いします。」
そこまで話して岩泉は美沙にスマホを返す。
「世話の焼ける奴だぜ。」
「うう。」
美沙は唸りながらスマホを受け取り義兄との話に戻った。
「美沙、事はわかったから早く戻っといで。岩泉さんとはぐれるんじゃないぞ。」
「わかった。」
音声通話は終了した。
「何やろ、流れ的に物凄くデジャヴを感じる。」
美沙はスマホを籠バッグにしまいながら呟く。