第62章 【強制拘束宣言あるいは夏祭りにて】
「これ美味しいね、美沙さん。」
「せやね、谷地さん。ちゅうか私こういうんも初めて。」
「何ですとっ。」
「じゃあ今日はまた美沙ちゃんの初めてがきっといっぱいね。」
「あい。」
一方で田中がクスクス笑う。
「縁下、おめえの妹も大分笑うようになったじゃねーか。もともと何気におもしれー奴だけどよ。」
「慣れたんだと思う。お前らのおかげだよ、ありがとな。」
「やめろよ、礼にゃまだ早いわ。どうせならもっと笑わせてからだろが。」
「ああ。」
力は呟いて美沙と分けたたこ焼きを口に運ぶ。
「アチチッ。くそ、美沙の事言えないな。」
「ハハハッ、おい縁下妹、兄貴が珍しくおもしれーことになってっぞっ。」
「田中やめろっ、馬鹿っ。」
「兄さん、どないしたーん。」
「なな、なんでもないからっ。」
首を傾げる美沙に力は慌てて取り繕うのだった。
そうやって一行はまた次へ移る訳だがやはりと言うべきか移動中は人目をちょいちょい引いていた。どうしたって清水と谷地が目立つのだろう、チラチラ見ている野郎共がいる。美沙は田中先輩が威嚇モードに入りかけとるし大丈夫やろかとキョロキョロしていた。例によって自分の事は頭に入っていない。しかし義兄の力がここでぐっと手を引いて自分を引き寄せてきた。
「兄さん」
疑問形で呼びかけると力は馬鹿、と呟いた。
「お前も油断しちゃ駄目だろ。」
「せやけど」
別に私なんてと言いかけた美沙は力にジロリと見られてそれ以上の抵抗はやめた。きっとはぐれたらカツアゲされかねないという心配なんだろうと解釈する。