第56章 【落ちる未遂】
「縁下以外の付き添いは嫌なのか。もう、ホント旦那大好きだなぁ。」
「文脈丸無視かいそんな話(はなし)してへんそして旦那言うなっ。」
美沙は思わず敬語を忘れて突っ込みを入れると菅原はよしよしいつもの調子に戻ったなと笑う。
「まーでも、貰った指輪つけてたりしてちゃ説得力皆無だけどなー。」
「何や男バレの人らはこんなんばっかりか。」
「文句言わない。ほら、いい加減にしないと手え繋ぐぞ。」
「嫌やっ。」
「こんなんが脅しになるのって美沙ちゃんくらいだよな。愛されてんなー、縁下。」
慰めついでにおちょくられて美沙はほとほと困りながら菅原と一緒に保健室に行く羽目になった。
美沙の義兄である縁下力は昼休み終了直前にスマホで菅原からのテキストメッセージを受け取った。
"授業前に悪い、美沙ちゃんがまた面倒な事になってる現場に居合わせた。"
力は内心動揺して硬直した。返信できないでいる間にもう一つ着信する。
"詳しくは後で。腕と肩打ってたから保健室に連れてった。"
礼のメッセージを送りながらああと力は机に突っ伏した。また自分の知らないところで義妹の身に何かが起きている。ただ今回幸いなのは菅原が近くにいたらしい事か。ふと気配を感じると成田が近くに来ていた。
「大丈夫か、もしかしてまた。」
心配そうに言う成田に力は力なく頷いてスマホの画面を成田に向けて先ほど来た菅原のメッセージを見せる。
「やっぱりか。でもまだマシな方なのかな、菅原さんが近くにいたんなら。」
力はああ、と半分唸っているような声で返事をした。
「大丈夫だよ。」
やはり突っ伏す力に成田が言った。
「いつも自分で言ってるじゃないか、お前の妹だろ。」
力はキョトンとして成田を見つめ、成田はにっと笑っていた。