第30章 【赤葦襲来 序幕】
襲来などと言うと語弊があるかもしれない。しかし縁下力のスマホに来たその申し出は襲来を予告されたようなものだった。
「赤葦君、今何て。」
とある日、スマホに向かって力は聞き返していた。スマホの受話口は東京の梟谷学園にいる赤葦京治の声で答える。
「だから今度の休みにそっち行く。で、泊めてほしい。」
「何でっ。」
「久々に君と会いたいと思ったから、ついでに君んとこの噂の妹さんを見たいから。」
「ちょっと待って。」
あまりにしれっと言われた内容に力は滅茶苦茶慌てる。慌てるなという方が無理な相談だろう。すぐ暴走する主将のブレーキ役である赤葦がそんな突発的な事を申し出てくるなんて思いもしない。
「友達に会いに行くのは不自然じゃないだろう。」
「そこまで言ってくれるのは嬉しいけど、ついでの目的が。」
「合宿中に妹についてあんだけ語られてしかもネットのライブ配信まで見せられちゃ気にもなるよ。何、手を出されるとかなんとか思ってるの。」
「べべべ別にそんな」
「声に出てる。大丈夫、悪い子だとは思わないけど別に俺の好みじゃない。」
力はうぐ、と唸る。赤葦にはやはり敵わない。
「で、どう。」
「俺はいいんだけど家族に相談させて。それから連絡する。」
「頼んだよ。」
音声通話はそこで途切れ、力はため息をついた。
「何か妙な事になっちゃったなぁ。」
それでも遠方から自分を友人と思って来てくれる事に悪い気はしない訳で力はまず最初に義妹の美沙に声をかけた。もっとも、半分ボケの美沙が嫌だと言うとは思えなかったけど。
「ええよ。」
ベッドに座って力が与えたキノコキャラのぬいぐるみを抱きしめながら案の定美沙はあっさりと言った。
「兄さんのお友達やろ、全然問題なし。せやけど東京からてえらい思い切りはったねぇ。」
「本当ね。」
力は笑うしかなかった。これで赤葦が実は力と一緒に合宿先で美沙のライブ配信を見た人物であると知れたら話は少し違っていたかもしれない。
両親に対しても事を説明するとOKが出た。何故か母が張り切ったのが面白い。滅多にないから高揚したのだろうか。