第29章 【ハミチキとかりゃあげ君】
更に余談ではあるがその後日の事だ。青葉城西の連中が部活を終えて帰っていた時のことである。
「あれ、」
矢巾が言った。
「京谷がハミチキじゃない。」
「本当だ、狂犬ちゃんどうしたの。」
矢巾はともかく及川にまで聞かれ、京谷は答えたくなくてプイッとそっぽを向く。
「ちょっと無視っ、キャプテン無視ですかっ。」
「京谷、いくらクソ川だからってその態度やめろ。」
「スンマセン。」
「いくらとかクソ川とか岩ちゃんひどいっ。」
喚く及川を無視して京谷は話を続けた。
「昨日変な女がいて、烏野の奴。そいつが食ってたからちょっと。」
「変な女。誰だ。」
「エン、エン何とか。」
ここで岩泉があ、という顔をし及川がハハーンといった様子でスマホを取り出す。
「狂犬ちゃん、それってもしかしてこんな子。」
及川のスマホの写真ビューアに表示された少女の顔を見て京谷は思わずブンブンと首を縦に振った。
「へー、とうとう狂犬ちゃんも会ったんだー。この子はね縁下美沙ちゃん、おにーちゃんが烏野にいる力君。覚えといてあげなよ。」
「苗字長え、読みづれえ、覚えらんねえ。」
「そもそも覚える気がないでしょ、狂犬ちゃん。」
「おいクソ川、無理強いすんじゃねぇよ。」
「あ、そっか、岩ちゃんも覚えらんないからいっつも烏野6番とその妹って言ってるもんね。」
「てめーっ、よけーな事言うんじゃねえっ。」
「痛いよ岩ちゃんっ。」
わあわあやりだす主将と副主将に京谷はアホくせと背中を向ける。
「こりゃまた珍しいな。」
矢巾が言う。
「縁下美沙さんは俺もちょっとだけ知ってるけど、お前が興味持つなんて。」
「うるせえ、興味なんかねぇ。」
「じゃあかりゃあげ君食いながらソワソワすんなよ。俺みたいなチャラ男じゃあるまいし。」
京谷は一瞬固まり、矢巾はそれを見逃さない。
「やめとけよ、兄貴の烏野6番があの子にぞっこんであの子も兄貴にべったりだから。」
「知るか。それより」
「お。」
「何かあの女馬鹿っぽかった。」
「馬鹿っぽいってどの辺が。むしろお前より頭良さそうだけど。」
矢巾に痛いところを突かれた京谷はつい睨むが珍しく堪えて言いたい事を優先した。