第5章 悪役令嬢の憂鬱【黒尾 鉄朗】
私は逃げている…
この世界から…
ある日目が覚めるとここに居た…
夢かと思ったが、
交通事故で死んだことを思い出して
今流行りの
《悪役令嬢に転生》
ってやつだと思った。
私は側近1人にだけ
記憶喪失であると明かし、
この一週間は風邪で寝込んでいる
ということにして
マナーや作法など日常生活ができるレベルの
レッスンを受けた。
以前の私には似合うわけのない
キラキラのドレスを着せられて。
(生前やっていたゲームだし…
最終イベントまでクリアしたから、
内容や世界観は分かる…)
でも、
断罪イベントを避ける方法が見当たらない。
というか、こんな派手な格好で道歩けない。
逃げたい。
そう思い立った私は
隣の国の山奥まで逃げることにした。
薄緑色のドレスを破って丈を短くし、
ダイヤの散りばめられたヒールを脱ぎ捨てて
屋敷を囲う林の中を走り回る
だが、
今の世界で私は代々国王に嫁いできた家系
□□家の令嬢…
逃げると言っても一筋縄ではいかない。
「〇〇様はいたか?」
「いや、いない!
あっちを探せ!」
こんな声が林中響いている。
転生してから毎日逃亡しているが、
その度に捕まっては
部屋に連れ戻されている
(今日こそは!)
後ろを警戒しながら走っていると
ドンッ!
何かにぶつかる…
『う…なんですの…?』
森が続いてるように見えるのに、
透明の壁に阻まれる…
ドンドン!と叩いてみるが、
蜃気楼のように揺れるだけ
『まさか…この世界の領域は
ここまでなの?』
(なんて狭さ…)
屋敷から目と鼻の先…
学校からも遠いとは言えない距離…
(本当にゲームで現れる場所くらいしか
存在しないのね…)
この世界から逃げられないことを悟り、
ガックリしていると
「〇〇様!ご無事ですか!?」
屋敷の兵士に捕まってしまった。