第14章 冬休み
仁「お前さん、何を考えておった?」
『え?』
喉から声が出たような音量じゃった
仁「穴に落ちる時、何を考えておる?」
『何を...?』
幸「一度じゃなかったんだね」
テニスをしている時に落ちる穴に
今日はラケットも持っておらんければボールも見ておらん
なのに氷月は穴に落ちた
ともなれば負の雰囲気が漂う時に考えられるのは
自分の中で何かと戦っておる時であると俺は考える
目を細めて思い出しておる氷月
まるで無意識に思っておったようじゃな
『...声が、聞こえる...』
幸「氷月?」
『悪口が、聞こえる』
仁「どんなんじゃ?」
瞳の奥に光が宿っておらず、心此処にあらずと言った感じじゃ
そうするとまた負の雰囲気が漂ってくる
『〈どうしてお前なんかが強いんだ。コーチは何を考えているんだ。俺達の方が長くやっているのに。そんなお前が憎い、ウザイ、消えろ、死ね。消えてなくなれ。この世に戻ってくるな。アリィはお前のせいで怪我をする〉...ア、リィ...』
仁「!、氷月っ!」
自信を強く抱きしめカタカタと歯を鳴らしながら大きく震える
目は見開かれ、体は強張る
幸「氷月!」
『アリィが、目の前で...。違う。目の前は、血の海で、周りには、子供が寝ている...、怖い、逃げたい、帰りたい。父さん、母さん、何処にいるの?迎えに来て。怖いの、逃げたいの、お家に、帰りたい』
完全に自分を見失っている氷月は静かに口を動かし
俺達とは違う世界を見て、自分の感情を吐き出している
『殺し、たくない。守り、たい、のに、なんで、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ...!』
?「...そこまでだ」
急にぐったりと前に倒れる氷月を
完全にさっきまで寝ておった誠さんが抱えた
幸「誠さん...」
父「さて、とりあえず寝よう。明日から仕事だしな。それに話す事もあるが、俺の中で整理したいから当分待っててくれな」
俺達の声を待たずに帰って行く姿は
まるで父親が子供を守る、そんな強い背中に見えた
俺は幸村と視線を交えた後
部屋に戻って行く
すでに誠さんは布団の中に入っており
氷月も眠っておった
布団の中に入ればまた違う冷たさが体を包み込み
これが心地良いと感じた