第1章 第一章 一部
「おい、酒買ってこい」
廃墟へ戻った頃には、辺りは真っ暗になっていた。
空に散りばめられた米粒のような星達。それを見る間もなく、高松さんにパシられる。
金が無いなんて言えるはずがない。言えば、確実に殴られる。
だから、俺達は借りるのだ。しらない奴に。
「金あんだろ? 貸してくれよ」
人気の無いゲームセンターの裏。気の弱そうな男を壁際に追い込み、逃げられないように三人で囲う。
「な、無いです……」
パグ顔のデブは、先程から“いやだいやだ”と、首を振ってばかり。
「あ? いいから貸せっ!!」
「や、やめて──」
有無を問わず、男の手から強引に鞄を引ったくる。
チャックを開けて中を漁ると、何かのキャラクターが描かれた財布が見つかった。
「あるじゃねーか」
財布を開けてみると、中には二万もの金が。
金欠の俺からすれば二万はかなりの大金。酒を買っても余裕で釣り銭が残ると思うと、自然と口許が緩む。
「ついでに学生証も抜き取っとけよ」
狐顔の男が俺に向かって強く言った。
奴の名前は渡辺恭輔(わたなべきょうすけ)。性格は悪く、かなりのナルシスト。自分の顔を鏡で見てはニヤニヤとしている、少しかわった男だ。