第4章 第二章 一部
「ヒトコロシ、フタコロシ──」
訳のわからない言葉を発する爺は細い人差し指で俺を指差すと、クツクツと喉を鳴らし笑った。
まさに、死神を見ているようだった。
爺の言葉が何を意味するのか分からないが、とても生きている人間の様には見えない。
まるで、幽霊。まるで、幻。
(あほくさ)
──この爺さんは呆けているだけ。言葉にはなんの意味もない。
俺は単車を走らせ、爺と壁の間を無理矢理通り抜けた。
通り抜ける際、爺の身体に肘が当たったのにもかかわらず、痛みすら感じなかった。
ただ、肌に感じたのは冷たい風だけ。
抜け道の出口へ差し掛かった頃。ふと後ろに違和感を感じ振り向くと、例の爺が単車の尻にしがみついていた。
ギイ……ギイ……
不自然に音を立てる単車。
「ははははははははは」
爺は永遠と笑い続けるばかり。
「ひっ──」
突然のことに驚き悲鳴を上げそうになったが、ギリギリの所で止まり、俺は一心不乱に単車を走らせる。