第4章 第二章 一部
団地を出て少し行った所にある抜け道を通っていると、遠くの方で小さな人影が見えた。
近付くにつれ、定まってくるその者の容姿。白髪頭のみすぼらしい格好をした爺(じじい)だ。
ここは、バイクが並んで通れない程の狭い道。しかし、道のど真ん中に立っている爺さんは、クラクションを鳴らしても端へ避けるような素振りすら見せず、こちらに背を向けている。
あまりにも爺さんが避けないので、俺は仕方なくブレーキをかけた。
キィィイイ──
鼓膜をつんざかんばかりのブレーキ音。タイヤが、ザザザと地面を擦る。
「避けろよ、ジシイ!!」
ギリギリの所で止まる単車。俺は単車のわずかな振動を肌に感じつつ、爺さんの背中向かって叫んだ。
「…………」
声も出さずに振り向いた爺さんは頬が痩せこけ、骸骨(がいこつ)のような気味の悪い顔立ち。俺に向かって何か言うつもりなのか、乾いた唇をプルプルと震わしている。
「なんだよ? 言いたいことがあるなら、さっさと言え」
時間がないのもそうだが、爺の態度がどうもいけ好かない。俺は威嚇(いかく)するようにエンジンを吹かし、爺を急かす。
「恐ろしや……恐ろしや──」
すると爺 は、念仏に似たようなものを唱え始めた。
爺の口から出た低い掠れ声はあまりにも気味が悪く、俺はゾクゾクとした寒気を背中に感じ、身を震わす。