第3章 第一章三部
山道をビュンビュン飛ばす車は、いつ事故ってもおかしくない状況。先程から、トランクに積んだ携行缶が激しい音を立てて移動している。
(死ぬかもしれない)
人の運転で死を意識したのはこれが始めて。クネクネとしたカーブばかりの多い山道を異常なほど飛ばす彼に、
『もう少し速度を落とせ』
と、注意したいが、なにせ相手は俺よりも3つ上の先輩。
言えるはずのない言葉は、ゴクリと音を立てて喉の奥へと消えて行く。
「おっせえな!! 早く行け!!」
山道を抜けた後。橙(だいだい)色の線が引かれた一車線の道で、ノロノロと走る軽自動車に遭遇。よく見れば、車体に若葉マークが貼られている。
どうやら、初心者のようだ。
「なにノロノロ走ってんだよ!! 50(キロ)の道を40(キロ)って馬鹿か!!」
だが、運転に慣れた男はそんな事などお構いなしにビービーとクラクションを煩く鳴らし続け、煽りに煽る。
車間距離を極限まで狭めてくる彼に観念したのか、前を走る車はハザードを上げて端に避けた。