第1章 第一章 一部
「急ごう」
携帯をポケットへしまった俺は、硬直している二人に声をかけた。
「お、おう」
なんとか声を出した太一は、頷いて此方を見る。
「…………」
一方の恭輔は、うんともすんとも言わない。いつもでかい態度をとっている割には、小心者のようだ。
「おい、恭輔!!」
先程よりも大きな声を出し、もう一度恭輔に声をかける。
「はっはい!!」
すると、恭輔は驚いたように飛び跳ね、情けない声を上げた。
なんと間抜けな声だろう。
「ぷっ、だせえ」
女のような声を出した恭輔を前に、俺は鼻で笑った。
「う、うるせえ!!」
「いてっ!!」
顔を赤くした恭輔が俺の腹を蹴飛ばす。本気でしたわけではないが、ちょうど鳩尾(みぞおち)辺りに入ったため、抉(えぐ)るような痛みが腹部を襲う。
「はやくしろよ!!」
先程とはうって変わって大きな顔をする恭輔が、風のような速さで団地の間を走り抜ける。
さすが、逃げ足が速いだけの事はある。あっという間に奴の背中は見えなくなった。
「行こう」
俺と太一は顔を見合せ、笑った。
そして俺達も、薄暗い団地の間を急ぎ足で走る。
両手にぶら下げた重たい袋を揺らしながら──。