第7章 偽りもの
とにかく今は、一刻でも早く帰宅することが先決だろう。そう考えた私は、手早く帰り支度を始める。
『隼斗くん!私、お先に失礼しますっ!』
「えっ?あっ、ちょっ…おい!」
彼の制止も聞かず、全速力で店を出る。冷たい空気が喉に流れ込み、一瞬呼吸が浅くなる。
しかし、そんなもの構っていられない。今は、とにかく彼の顔が見たい一心で、鮮やかな色の光を放つ並木道を駆け抜ける。
(お願いだから、いい子で待ってて。)
そんな思いも届かずに、信号機は素知らぬ顔で赤く点灯する。足を止めた瞬間、凍えるような冷たい風が身を襲う。
『ひっ…!これは…寒い…。』
歯と歯のぶつかる音の合間に小さく独り言をこぼす。この寒さはどこか身に覚えがある。そう、彼と初めて出会った日だ。
(確かあの日もこんなこんな感じに寒くて______)
______フッ…
『……!!雪…!』
まるでタイミングを見計らっていたかのように、柔らかな白い影が空から舞い落ちる。
まるで、彼みたいだと思ってしまう私は、かなり彼に入れ込んでいるらしい。そんな自分を自嘲気味に笑うと信号が青に変わった。
(……ホワイトクリスマスイブ、か。)
口に笑みを浮かべながら、私は駅までの道を急ぎ足で進んだ。
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______4番線、お降りの方はお忘れ物のない…
なんとか終電に乗り込み、やっとのことで家の最寄り駅へとたどり着いた。ICカードで改札を抜け、巻いていたマフラーをさらにきつく巻き、駅の外へと踏み出した。
雪が降ってまだ間もないのに、すでに道路はうっすら白く染まっている。
(雪…強くなってきたな…)
これ以上に大振りになられると、さすがに傘なしで帰るのは厳しくなってくる。まだ誰の足跡もない、まっさらな道を私はまっすぐ駆けていった。