第7章 偽りもの
『ちょっ…私のグラス!返してくださいっ』
「はい、どーぞー。」
そう言って手渡してきたグラスからは、明らかにアルコールの香りがする。
『私今日は飲みませんので。これ、隼斗くん飲んでください。』
私がグラスを押し返すと、彼は不満げに唇を尖らせ、
「なんだなんだー?やっぱりお前この後なんか予定でもあんだろ!さぁ白状するんだ!!」
『はい?!だから、なんでそうなるんですか!』
また以前と同じような流れになり、群がる同僚らに焦りを覚える。
「なになに?やっぱり柊さんて彼氏いたの?」
「えっ!?マジで…?全然そんな雰囲気無かったのに…」
「ねぇねぇっ写真無いの?写真!」
残念ながらそんな事実はないため、みんなからの熱い期待には応えられない。
『あの…本当にいないので、写真も何も…』
「この隼斗様を差し置いて恋人をつくるなんぞ許せん!」
「隼斗さん、それじゃただの八つ当たりじゃないっすか!」
完全に酔いが回ってきている隼斗くんの言葉にどっと笑いがわく。
「んなっ!?ちくしょーっ、ダメだ!やっぱり絵夢も飲め!!」
______ガチッ
『っ!?』
いきなり、隼斗くんが自分のグラスを私の口に押しつけてきた。その勢いで、グラスと歯が音を立ててぶつかる。口内に流れ込んだ液体は、難なく私の喉を通過した。
(うわっ…何これ、アルコール…つよ…)
周りが隼斗くんを止めに入るがもう遅い。顔が上気し、なんとなく目眩もする。ここ最近、アルコール自体を体に入れていなかったため、おそらく耐性が弱まっていたのだろう。
(…なんか、頭ぼーっとしてきた…ぁ)
それを最後に、私の意識は途切れた。