第5章 仕置きもの
(とりあえず、入るか。)
考えていても仕方がないと、鍵を差し込むがいつもの解錠の感覚がない。
(……?鍵、空いてる?!)
彼に何かあったのかと、冷や汗をかきながら急いで扉を開ける。
______バンッ!
『……へ??』
そこにいたのは、先ほどまで私の頭の中を占めていた彼だった。真っ暗でよく見えないが、窓から差し込む月の光を背に受けているのは、確かに私が拾ってきた彼だ。
リビングへと続く廊下の一番玄関よりのところに彼が正座しているのだ。
『椎…?どうしたの、こんなところで…』
状況が全く読めない私はとりあえず彼に言葉を求める。少しずつ暗闇に目が慣れてきて彼の姿が捉えられるようになる。彼の服装は今朝見た寝巻きのままだった。
『…椎?』
その後、何度か声をかけても彼は一向に顔を上げない。さすがに不安になった私は彼の前に膝をつく。
そして、彼の表情を確認しようと彼の両頬に手を添え、視線を合わせようと試みる。
(……椎、泣いてる?)
彼の頬に雫の跡があるのを見つけたとき、やっと彼が声を漏らした。
「…ごめん…なさい。」
『…え?』
彼から最初に発せられた言葉は私に対する謝罪だった。思いもよらぬ返答に私は一瞬固まった。
『…とりあえず、何があったか話してくれる?』
ここは自分で話を進めていくしかないと悟り、彼へと言葉を放つ。
「…俺……朝…起きれなかった…から」
『……へ?』
もうすでに頭が回らない。今の言葉から推測するに、彼が正座して謝罪している理由は自分の寝坊が原因だということだろうか。
「…家事は俺のやることなのに…あなたに、絵夢に朝ごはん…作れなかった。」
震える声で必死に彼は言葉を紡ぐ。やっとひとつ謎が解けた。彼が目覚まし時計を抱いて寝ていた理由だ。
彼はおそらく、というか確実に早起きが苦手である。それは、彼が我が家に来た翌朝に既に把握している。
自分の役目を全うしようとした結果、目覚ましを抱いて寝るという行動に至ったのだろう。